大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和47年(ワ)499号 判決

原告(反訴被告)

本間行蔵

右訴訟代理人

内藤功

外三名

被告(反訴原告)

佐藤末悦

右訴訟代理人

飯沢進

主文

本訴原告(反訴被告)の請求を棄却する。

反訴被告(本訴原告)は反訴原告(本訴被告)に対し金五五万円およびこれに対する昭和四七年四月一六日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は本訴原告(反訴被告)の負担とする。

この判決の主文第二項にかぎり、被告において金一〇万円の担保を供するとき、仮に執行することができる。

事実

第一  双方の申立

一  本訴につき

原告(反訴被告、以下単に原告という)

1  被告(反訴原告)は原告に対し、金七、〇〇〇万円およびこれに対する昭和四二年一一月二四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

3  仮執行の宣言。

被告(反訴原告、以下単に被告という)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

二  反訴について

被告

1  原告は被告に対し、金五五万円およびこれに対する昭和四七年四月一六日から支払済に至るまで年五分の割合にる金員を支払え。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

原告

1  被告の反訴請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  本訴請求原因

1  原告は、昭和四一年七月二八日、財団法人宗教福祉協会属明治百年祭記念会事業局(その後昭和四二年二月同福祉協会属明治百年記念会と改称し、次いで昭和四二年七月更に同福祉協会属明治百年記念文化協会と改称、以下単に協会という)なる権利能力なき社団を設立してその会長となり、被告は昭和四二年二月二〇日以後右協会の事務局長、同年七月八日以後はその理事長の任にあつたものである。

2  右協会は、昭和四二年が明治百年に当るところから、これを記念する

事業として、明治天皇の御尊像の頒布事業を目的とするものであるところ、原告は右協会の事業資金に当てるため、昭和四二年七月初め頃同協会の監査役であつた訴外吉松寅蔵から同人の所有にかかる東京都大田区南馬込五丁目一六〇八番地宅地一五五坪、同所一六〇九番地宅地四二〇坪、同所一六一〇番地宅地三五六坪合計一〇三一坪の三筆の土地を譲り受けたうえ、同月三日ころ被告に対してその処分方を依頼してその図面を交付し、その後更に右吉松の印鑑証明書、委任状等所有権移転登記手続に必要な書類一切をも交付した。

3  その後同年一一月七日右各土地を被告に代金一億円で売渡すこととなつたが、前記吉松が訴外大洋信用金庫から右各土地を担保に金三、〇〇〇万円の融資を受けていたので、被告は同日原告に対し右代金一億円のうち金三、〇〇〇万円を同金庫に支払い、残金七、〇〇〇万円を同月二三日までに原告に支払う旨確約した。

4  しかるに被告は、原告の再三の請求にも拘らず、右代金七、〇〇〇万円を支払わない。よつて右代金七、〇〇〇万円およびこれに対する右支払期日の翌日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  被告の答弁ならびに反論

1  請求原因事実のうち、協会の存在及び原告がその会長を称し、被告がその理事長の肩書を有していたこと、右協会が明治百年(昭和四二年)を記念するため、明治天皇の御尊像を頒布することを目的としていたこと、原告主張の土地合計一〇三一坪が訴外吉松の所有であり、原告からその図面の交付を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  右協会の実体は原告とその内妻訴外吉野道子との単なる共同事業であつて、団体としての実体はなくその規約も存在せず、財団法人宗教福祉協会属なる肩書も潜称に過ぎない。被告は株式会社サトウダイヤモンドチェーンの代表取締役社長であつて、鶴見市に本店を置き、各地に支店を持つて手広く時計及び貴金属店を経営しているもので、たまたま右吉野が以前被告の店員をしていたことがあり、昭和四二年二月頃被告を訪ね、援助を求められたので、被告は同月七日原告らの頒布する明治天皇御尊像販売のための代理店を引受け、前金として四五〇万円出捐したのがきつかけで、次々に金員を貸すやら、御尊像製作のための金型代、額縁代、メツキ代を原告のため立替えるやらで、九〇〇万円余を出捐したのである。そして原告は被告を利用するためのその協会の事務局長もしくは理事長に勝手に祭り上げたのである。

3  昭和四二年八月頃、原告は被告に対し、南米に御尊像を頒布しに行く旅費を作りたいが、本件土地を担保に銀行から四、〇〇〇万円位借りて貰いたい旨の申出があつたので、被告はこれを了承し、その際に右土地の図面の交付を受けた。そこで被告は早速取引先の横浜信用金庫大口支店や日本相互銀行鶴見支店に金融方照会したが承諾を得られず、やむなく被告は同年九月初め頃その旨原告に報告し、これによつて右委任事務は終了している。

甲第一号証の念書は原告が訴外吉野と意を通じてなした偽造文書である。原告は前記のように被告を協会の理事長に推せんしたと称して被告名義の理事長印をこしらえ、しかもこれを被告に手交せず、原告もしくは吉野が保管し、被告不知の間にこれを冒用して右念書を作成したものである。原告は同様の方法で乙第一二号証の同年八月二四日訴外上松額縁店宛注文書を作成偽造しており、後日被告はこの事実を知り、直ちに原告に対し昭和四三年一月六日付書面をもつて理事長辞任の旨通告した。なお右上松額縁店はその後被告に右注文書記載の額縁代金の支払を求めて提訴した(東京地方裁判所昭和四三年第四七九六号)ので、被告は当初これを争つたが、品物が現に協会に引渡されているため、やむなく示談して金六五万円を立替払いした。

4  本件土地は以前菅田武三が所有し、訴外草薙忠に賃貸し、更に約三〇名位に転貸されていたが、前記吉松に所有権譲渡後右転借人に分譲され、昭和四二年一二月一九日その旨の登記手続も終了しているものであつて、被告はこの分譲につき全く関与していないのである。

第四  反訴請求原因

1  前述のように甲第一号証の念書は原告の偽造にかかるものであり、しかも前記第三の答弁及び反論において述べたように原告の本訴請求は全く理由のないものであつて、原告に右理由のないことを知りながら本訴を提起して被告の応訴を余儀なくさせたもので、本訴請求はまさに不法行為といわなければならない。

2  被告は本訴請求に対する応訴のため、時間的にも経済的にも種々の浪費をせざるを得ない状態に立たされたのみならず、東京都、神奈川県に多数の販売店をもつ株式会社サトウダイヤモンドチェーンの代表取締役社長としての名誉を著るしく害され、精神的損害をこうむつた。

3  被告の受けた損害

(一)  弁護士費用(着手金)

金二五万円

(二)  慰藉料    金三〇万円

4  よつて被告は原告に対し、合計金五五万円の損害金およびこれに対する反訴状送達の翌日である昭和四七年四月一六日より民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第五  反訴請求原因ならびに前記第三被告の答弁ならびに反論に対する認否

反訴請求原因ならびに第三被告の答弁ならびに反論中、被告が株式会社サトウダイヤモンドチェーンの代表取締役社長であつて、鶴見市に本店を置き各地に支店を持つて時計及び貴金属店を経営していること、訴外吉野が以前被告の右店員であつたことが認めるが、その余の事実はすべて否認する。

被告は自ら協会の事務局長もしくは理事長の肩書を要望し、その名刺にも右理事長の肩書を印刷して、対外的にも理事長として行動していたものである。

なお甲第一号証の念書は訴外吉野が被告の口述するとおりに代筆し、原、被告の面前で被告の名下に押印したものであつて、被告の反訴請求こそ不法行為というべきである。

第六  証拠〈略〉

理由

一財団法人宗教福祉協会属明治百年記念文化協会なるものが存在し、原告がその会長を称し、被告がその理事長肩書を有していたこと、右協会は明治百年(昭和四二年)を記念して明治天皇の御尊像の頒布事業を目的としていること、被告は株式会社サトウダイヤモンドチェーンの代表取締役社長であつて、鶴見市に本店を置き各地に支店をもつて時計及び貴金属店を経営し、右協会に関係のある訴外吉野道子が以前被告の右店舗の店員であつたこと、東京都大田区南馬込五丁目一六〇八番地、一六〇九番地及び一六一〇番地の宅地合計一〇三一坪が訴外吉松寅蔵の所有に属していたもので、被告は原告からその図面の交付を受けたことは当事者間に争いがない。

原告は右土地を代金一億円で被告に売渡し、右土地の図面の外訴外吉松の印鑑証明書、委任状等所有権移転登記手続に必要な書類一切をも被告に交付した旨主張するが、〈証拠〉中これに沿う部分は後記各証拠に照し措信し難く、〈証拠〉も右主張を立証するに足りない。甲第一号証の念書には右土地の売却に関し記載があるが、売買の当事者が何人であるか明らかでなく原告主張の売買を証するには足りない。もつとも右念書には、被告が原告から右土地に関し訴外吉松及び原告の各委任状、印鑑証明書等登記に必要な書類一切を受領し、昭和四二年一一月七日付をもつて同月二三日までに売渡代金七、〇〇〇万円を原告に支払うべく約した旨の記載があるが、右念書は後記の如く原告と訴外吉野の偽造にかかるものであつて採証の用に供しうべくもなく、その外に原告主張の売買を立証するに足る証拠はない。

かえつて〈証拠〉によれば、前記第三、34の被告の反論事実ならびに反訴請求原因1、2の各事実が認められる。

二そうすると原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく失当であるのに反し、右認定にかかわる被告の反論事実によれば原告の本訴請求は原告においてその理由のないことを知りながら敢てなした不当訴訟であつて、これを不法行為であると断ずるに充分である。

〈証拠〉によれば被告は原告の不当訴訟に応じるため、被告訴訟代理人弁護士飯沢進に対し、着手金として金二五万円を支払つたことが認められ、また前記認定の諸事実を総合勘案すれば、被告が蒙つた精神的損害に対する慰藉料としては金三〇万円が相当であると認められる。従つて原告は被告に対し不法行為による損害賠償として合計金五五万円およびこれに対する反訴状送達の翌日たること記録上明らかな昭和四七年四月一六日から完済まで、民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるといわなければならない。

三以上のとおりであるから、原告の本訴請求は失当として棄却すべく、被告の反訴請求は全部理由があり認容すべきである。〈後略〉 (新田圭一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例